サーフィンと学業の両立へ。オーストラリアでの挑戦ー馬庭彩さんインタビュー
今回お話をお伺いしたのは、プロサーファーとしてQS(クオリファイングシリーズ)を回りながら、オーストラリアの名門大学の一つグリフィス大学に通うまさに「文武両道」の馬庭彩さん。地元神奈川県茅ヶ崎市の中学校を卒業後、高校からオーストラリアに渡り、異国の地で常に自分にストイックに、サーフィンや学業と向き合っている彼女。留学を決意した理由や、日本とオーストラリアのサーフィンの違い、今後の目標など、朗らかにお話しいただきました!
サーフィンのレベルアップのため、留学を決意。
サーフィンを始めたきっかけはなんでしたか?
母がもともとサーフィンをやっていて、幼少期から毎朝4時に叩き起こされて一緒にサーフィンをしていたんです。当時はサーフィンが好きではなくて泣きながら海に行っていました(笑)
小さい時はやらされ感が強いですもんね(笑)そこからサーフィンにハマった理由はなんだったのでしょうか?
試合に出るようになって勝つことの楽しさを味わったからですね。もっと本格的にサーフィンに取り組みたいという思いから、中学卒業のタイミングで、留学経験のある母からの後押しもあり、オーストラリアへの留学を決意しました。
なぜオーストラリアを留学先に選んだのですか?
まずはとにかく波がいいことが理由です。毎日サーフィンができる環境で、レベルアップしたかったんです。留学前にオーストラリアに試合で行く機会があり、治安の良さを感じたというのもありますね。
最初は慣れない環境の中で大変だったのでは?
ものすごく大変でした。ギリギリで進路を変えて留学をすることを決めたので、進学に必要だった英検準2級を取得しただけで、家や車、日常生活に必要な英語力などは何もない状態で、オーストラリアへ出発しました(笑)語学学校ではなく、現地の高校に通ったので、最初は周りの会話についていけず、明るいおしゃべりな自分の性格をなかなか出せない日々が続きました。
現地校となると英語力も当たり前に必要になりますし、大変ですよね。
最初から歴史や理科について学ぶんです(笑)専門的な用語も多く、苦労しました。毎日新しく50単語を暗記するというのを徹底して、少しずつ語学力を上げていきました。
オーストラリアは視野や思考を広げてくれた。
グリフィス大学ではどのようなことを学んでいるのですか?
Exercise Science(運動生理学)を専攻しています。細胞学、運動力学、栄養学など運動に関連する身体の反応や機能を研究する学問です。
サーフィンにも活かせそうな学問ですね!
そうなんです!解剖学の授業では、ご献体いただいたご遺体をもとに、筋肉の構造を確認したりとかなり実践的な内容です。大学で仲の良い友達はみんな医者を志ざしていて、そういう仲間と大学生活を過ごすことで自分の視野や世界が広がった感覚があり、留学してよかったと日々感じています。
サーフィンをしているだけではなかなか経験できないことですもんね。
大学は試合で長期間海外に行くこともすごく理解してくれていて、去年はオンラインで授業を受けることも多かったです。サーフィンの試合の合間を縫って、テストに向けて1週間集中して勉強をして、テストを受けるためだけにオーストラリアに帰国して、また試合に戻ってというなかなかタフな毎日を過ごしています。
めちゃくちゃハードですね!テスト期間以外の一日のスケジュールはどのような感じなのですか?
朝イチでサーフィンして、海にあがって有酸素トレーニングをしてから授業を受けています。授業の後にもう一回サーフィンをして、その後週5で日本食レストランでホールの仕事をしています。ホールのマネージャーのような役割を担っていて、高校生の時から続けている仕事です。毎週水曜日は授業も仕事も入れない日と決めていて、授業の課題に取り組んだり、生活リズムを整えるためにのんびり過ごすようにしています。
学業・サーフィンのほかに、仕事まで!そんな彩ちゃんのリフレッシュ方法はなんですか?
最近はSNSで名言集を見るのにハマっています(笑)偉業を成し遂げてきた人の格言とかそういうのを見るとやる気が湧くんです(笑)見すぎてインスタのおすすめ欄はそれしか出てこない時もあるくらい。あとはピアノですね。ピアノはサーフィンよりも長く続けていて、ピアノを弾くと気持ちが落ち着きますね。
リフレッシュ方法までストイック(笑)
私の母が今まで会った誰よりもストイックなんです。小さい時からなんでも完璧にこなす母の背中を見て育ったから、私もこういう性格になったんだと思います。
「自分らしさ」を伸ばし、さらなる飛躍を目指して。
オーストラリアでのサーフィンのトレーニングについて教えてください!
サーフィンの練習はもちろんですが、試合に勝つためのメンタル維持や戦術をコーチと考えたり、毎週金曜日は年上のサーファーと一緒に、大きい波でもパニックにならず肺を大きく使えるようにするための呼吸の合同トレーニングに参加しています。
日本とオーストラリアのサーフィンの違いはなんだと思いますか?
オーストラリアはコーチング制度がすごく充実しているので、その差が大きいなと感じています。コーチと二人三脚で様々な練習方法に一緒に取り組んでいます。例えば、ジェットスキーやトランポリンを使ってエアーの練習をしたりと、日本ではまだ取り入れられていないメニューを行っています。
オーストラリアに行ってから、どのような変化を感じていますか?
一番は思考の変化です。今までは自分のサーフィンの強みを本気で「良い」と思えない自分がいたんです。
彩ちゃんのサーフィンの強みはどういう部分ですか?
強みは「パワフルさ」です。日本にいた頃は、自分とは違うタイプのスムーズで流れるようなサーフィンに憧れていました。オーストラリアに来てから、コーチやコメンテーターからの評価を素直に受け止めて、パワフルなサーフィンをもっと伸ばしていきたいと思えるようになったんです。
海外の方ってすごく自己肯定感を上げてくれるような声かけをしてくれますもんね!
そうなんです。ポジティブに褒めまくってくれる方々ばかりで、すごくいい影響を与えてくれています。「ありのままの自分でいいんだ」と自分の武器に自信が持てるようになり、しっかりと練習でも強みに向き合えて、試合でもいい結果が出せるようになりました。
強みを伸ばすために練習で心掛けていたことはありましたか?
毎回テーマを決めて練習するようにしていました。「今日はこの技を練習しよう!」と決めたら、徹底的にやりこんでそれしか練習しないということもあります。パワフルという自分の軸は崩さず、特徴を活かしながら、パワフルだけど流れるようなサーフィンもできるように日々練習しています。
未来の子どもたちに新しい選択肢を作っていきたい。
サーフィンの参考にしている選手はいますか?
カリッサ・ムーア選手です。小さい頃から憧れの選手で動画を何回も見て研究しました。陸での優しい性格とは裏腹に、海に入るとスピード感のあるパワフルで周りの注目を集めるサーフィンがとても好きです。
実際に会ったことはありますか?
一昨年の10月に同じスポンサーのHurleyさんを通して、カリッサと4日間共に過ごすことができました。私は通訳としても帯同していたので、密にコミュニケーションを取ることができてすごく嬉しかったです。ハワイに帰る前は私の地元の茅ヶ崎に来たいと言ってくれて、一緒に波チェックをしたり、鎌倉で観光もしました(笑)
それはすごい!憧れの選手と素敵な時間を過ごせましたね!
4日間の交流の中でカリッサの優しい人間性に触れて、サーフィンのことはもちろん、人として大切なことをたくさん学べたと思っています。カリッサはが「夢を持つことの大切さ」を子供たちに語る時、大勢の子どもたちの前でも一対一の場合でも平等に同じ熱量で話されており、数々の試練を乗り越えた先の本気の言葉を感じ取ることができました。
今後の目標を教えてください!
昨シーズンは怪我で思うような結果が出せなかったのですが、今年は10月から始まるQSツアーでいい結果を残し、アジア人3枠の中に入って、2025年度はCSのツアーを回ることです。長期的な目標は4年後、8年後のオリンピックに日本代表に選ばれることです!
8年後はオーストラリアのブリスベンが会場ですもんね!大学卒業後も拠点はオーストラリアの予定ですか?
はい!オーストラリアの永住権を取ろうと思っています。大学の卒業はもちろんですが、取得できる職業などいくつか条件があるので人生計画を立てているところです!
彩ちゃんはサーフィンのどのような点が魅力だと感じますか?
「生きている」と実感ができる点だと思います。チューブの中に入っていると、波の音しか聞こえくなる瞬間があって、チューブから見る景色はいうまでもなく美しい。オーストラリアでは1メートル先にイルカやクジラがいることも当たり前にあるので、自分が映画の主人公になったような感覚になれるスポーツだと思います。
最後に読者へメッセージをお願いします!
オーストラリアの高校・大学に進学しているサーファーは日本ではおそらく私だけだと思います。サーフィンも学業もどちらかを言い訳にしておろそかにするのではなくて両方で結果を出していきたいという思いで、今頑張っています。私のこれまでとこれからの選択が、小さい子供たちの未来を広げられたらいいなと思っています。応援をよろしくお願いします!