心と体を整える仕事。自然と調和するライフスタイルー元プロサーファー小林雅仁さん
今回お話を伺ったのは、湘南在住の元プロサーファーで、現在はヨガインストラクター・庭師としてフリーランスで活動している小林雅仁さん。この記事では、彼のプロサーファーとしてのキャリア、ヨガインストラクターとしての活動、そしてコロナ禍で見つけた新たなライフワークである庭師としての情熱に迫ります。自然とのつながりを大切にし、多方面で活躍する秘訣とは?多彩なライフスタイルを送る小林さんの生き方に注目して密着取材しました。
プロ生活をやり切った後に出会ったヨガ
諦めずにチャレンジしたプロへの道
サーフィンを始めたのは、家族で七里ヶ浜に移住した12歳の頃、父の影響からでした。アマチュアの試合や全日本の試合に出る中で、先輩から「プロを目指してみたら?」と言われ、やってみようと思ったんです。その頃は大学生だったので、アルバイトと並行しながらサーフィンの練習を続け、3年後の23歳の時にロングボードのプロトライアルに合格しました。ちょうど周りは就職活動をしていた時期でしたが、あと少しでプロになれるという手応えがあったので、諦めず挑戦し続けて掴んだ結果でしたね。
苦しい生活の後に見つけた好きなこと。
プロサーファーにはなれたものの、それだけで生活していくのはかなり厳しかったです。千葉県に拠点を移して飲食店でアルバイトをしながらサーフィンの練習を続けていましたが、試合でなかなか結果が出ず、「このままじゃダメだな」と思い始めました。26歳でプロサーファーとしての活動に一区切りをつけて、地元の湘南に戻って正社員として働こうと決めたんです。その時に出会ったのがヨガでした。ヨガスタジオに通い始め、インストラクターとして働きながら資格を取得して、どんどんヨガにハマっていきました。
コロナ禍に興味本位で始めた造園の仕事
勢いで応募したアルバイトが転機に。
有名ヨガウェアブランド会社にヘッドハンティングをされ、インストラクターとしての仕事が軌道に乗ってきたころ、コロナウイルスが蔓延し、人を集めてヨガ教室を開催することがだんだんと難しくなっていきました。少しずつ生活に影響が出てきて、ヨガ一本では生活が厳しくなってきた頃、求人サイトで『未経験歓迎の造園短期アルバイト』を見つけ、興味本位で応募しました。小さい頃から公園の草刈りや、街路樹の手入れを行っている仕事への関心があり、経験もツテもないところから勢いで飛び込みました。募集されていたアルバイトは夏の2ヶ月間という短期間でしたし、最初は簡単な作業からで、軽い気持ちで始めたのですが、2ヶ月後には造園の魅力にすっかりハマってしまい、アルバイトから契約社員という形で、そのままそこで庭師として働くことになったんです。最初に出会った親方がすごくいい方で、早いうちからハサミを握らせてもらって、どんどん技術を習得できたこともモチベーションに繋がったと思います。
自然の中で手を動かし、「気」を整える造園の魅力。
なぜこんなにハマったのかを説明するのは難しいんですけど、自然の中で体を動かすことが本当に心地よかったんだと思います。海とはまた違う自然の魅力があって、暑い日も寒い日も外で作業をしているので、四季の移り変わりを感じられるのも楽しい。ヨガのスタジオでデスクワークもしていた時期があったので、ずっと体を動かすのはきついかなと思っていましたが、実際にやってみると、仕事が終わった後は爽快感で満たされていて、自分に合っているなと思いました。チームで働くこともありますが、それぞれ目の前の草木に没頭しているので、必要最低限のコミュニケーションのみ。あくまでも「自分と自然」という世界がすごく心地よかったです。自分の手で草木を整え、風の通り道を作り、最後は綺麗になるという一連の作業を通して、その場の空気や自分の心の中もスッキリする感覚があるんです。
一つ一つの仕事を丁寧に、着実にやっていく
サーフィン、ヨガ、造園に共通していること。
コロナ禍が落ち着いて、ヨガが再開できるようになってからは2つの仕事を両立し、どちらもフリーで活動しています。一見つながりがないように思えるこれまでの3つの仕事ですが、実はどれも体の柔軟性や運動神経が必要なんです。高い木に登る時も、普通の人が足をかけられないところにスッと足をかけられたりして、ヨガやっててよかったなって思います(笑)あとは「終わった後の心地よさ」は全てに共通していますね。どの仕事も自然ありきのお仕事。自然に生かされていることを日々感じています。
満足してもらえる仕事をしたい。
仕事を通じて、人にがっかりしてほしくないという気持ちが強いです。だから、一つ一つの仕事を丁寧にやっていくこと、横着しないことが大切なんだと思います。やっぱり個人で仕事をしているからこそ全責任が自分にあるわけで、目の前の仕事が次に繋がっているということをすごく感じています。
ヨガのレッスンでも、「来てよかったな」と思ってもらえるように、毎回自分の経験を元にしたテーマを決めてレッスンをしています。1時間という短いレッスンではありますが、ヨガの忍耐の部分と心地いい部分のちょうど中間を見つけられて、参加者が自身の体と向き合える時間にするために空間作りやレッスンの流れを意識しています。
好奇心の赴くまま、心に素直に
一回しかない人生を楽しみ尽くす。
昔から「器用貧乏」と言われることが多かったんですけど、自分は一つのことにこだわらず、いろいろなことに挑戦したいタイプです。プロサーファーを引退する時も、「もったいない」と言われましたが、自分としては前に進む方が自然でした。サーファーとしての経験はずっと自分の中に残るし、毎回やり切った上で次のステップに進んでいるので後悔もなかったです。だからビビッときたものに関しては、経験有無に関わらず飛び込んでしまうみたいです(笑)何事もやってみないと分からないので、まずはチャレンジすることが大事だと感じています。
オフの日に意識していること。
フリーランスで働いていると、休みなく働くこともあるので、意識的に仕事から距離を取るために、「遠くに行く」ことを心がけています。普段の場所から少し離れるだけで頭がリセットされ、リフレッシュできます。近場でも違う環境に身を置くことで、新しい発見があるのが楽しいですね。最近は近場ですけど箱根に行って、ちょっと高級なうなぎを食べたり、サウナやプールに行ったりと、ふだんなかなかできない体験をしました。フリーランスだと思考や視野がかなり狭くなってしまうんですね。成長するためには俯瞰で見たり、新しいものを吸収したり、出会いを求めることが大事だと感じているので、休みの日の過ごし方は大切にしています。
自然に根ざした生き方をこれからも。
波に乗っている時間で思考をリセット。
波があれば、朝でも夕方でも時間を見つけて海に入っています。サーフィンは自分にとって思考をリセットする時間なんです。繁忙期は週1くらいの時もありますが、基本週4くらいで海に行くことが多いです。20年もサーフィンやっているのに、海に入ると毎回新しいことを教えてくれます。この間もサーフィンをしながら、沈んでいく夕日や変化していく空と海を見ていると、言葉ではいい表せれない感動を覚えました。波に乗る前は仕事でうまくいかなかったこととや私生活のことで頭の中がごちゃごちゃしていても、波に乗っている最中はサーフィンだけにフォーカスできるところが好きなんです。波に乗っている時間は1分未満、何十秒という世界ですけど、あの瞬間、あの一瞬に全てをかけられるところが魅力だなと感じます。
33歳、これからの夢。
サーフィン、ヨガ、庭師という自分の好きなことを仕事にしてきましたが、今後は「好きなことをするために仕事をする」という考え方にシフトしています。フリーで仕事をするのは自分にとっては心地いいのですが、そろそろ体力的に限界を感じてきているので、「一つのことに縛られない自由なチーム」を作りたいと思っています。正直プロサーファー一本で生活できる人ってごく一部。プロサーファーしながらそれぞれの個性や強みを活かしていろんな活動をしている人が多いので、そういう人たちをつなげられるようなパイプ役として今後はクリエイティブなチームを作れたらいいなと思っています。
読者に伝えたいこと。
サーフィンを好きな理由だったり、サーフィンをはじめたきっかけをずっと忘れずに、平和にサーフィンを楽しんでほしいと心から思います。海に入って心が浄化されれば、余裕が生まれて人に優しくできるといういい循環を、サーフィンを通して作っていけたらと思っています。