先端技術で水難事故ゼロを目指す!ーサーファー研究者 中央大学・石川仁憲さん
今回お話を伺ったのは、中央大学研究開発機構 機構教授であり、日本ライフセービング協会理事/救助救命本部長の石川仁憲さん。海を愛するサーファーであり、AIやドローンなどを活用した水難事故防止と早期救命救助活動の研究者でもあります。大学生の頃からライフセーバーとして海の安全に携わってきた経験を持つ石川さんが、なぜ研究に打ち込むようになったのか、その背景と想いを語っていただきました。
サーフィンを始めたきっかけは?
大学時代にライフセーバーとして活動を始めた頃、多くの先輩がサーフィンを楽しんでいて、自然な流れで自分も始めました。大学生の頃にはお金を貯めて、数ヶ月間ハワイのマウイ島に行き、サーフィン修行をしたこともありました。そこから何十年も経ち、社会人になってもサーフィンを続けています。
先端技術を活用した水難事故防止の研究を始めた理由は?
ライフセーバー時代、救えなかった命があったからです。その日は海が荒れていて、立て続けに救助活動にあたっていました。一つ前の救助を終え、浜に戻ってトランシーバーを取ると、遊泳エリア外で遊んでいた高校生が離岸流で流されたとの連絡が入りました。波が荒れすぎて目視では確認できず、急いで海に入り探し続け、ようやく浮いている人を見つけました。海上で人工呼吸を施し、漁船にピックアップしてもらい、救急隊到着の際に脈は確認できたのですが、結局帰らぬ命となりました。事故の反省点は、自分がすぐに救助者の位置を確認できなかったことです。そのことがずっと心に残っており、AIで溺者を検知し、ドローンで追跡する研究に取り組み始めました。これによって救助者が目視で確認できなくても、ドローンの位置から救助対象のおおまかな場所が分かります。この研究が多くの命を救うきっかけになればという思いで、日本ライフセービング協会と連携をしながら研究を続けています。
サーフィン中の事故が多かった今年の夏、サーファーが気をつけるべきことは?
海をよく観察することが重要だと思います。多くのサーファーは海に入る前にストレッチをしながら波を観察しますが、経験年数に関わらず続けるべきです。また、自分の体だけでなく、サーフボードやリーシュなど道具のメンテナンスも忘れないことが大事です。私も大波でリーシュが突然切れて焦ったことが数回ありましたので、過信せずにやっていただきたいです。さらに、海水浴シーズンには普段海に入らない人も増えるので、ライフセーバーだけでなくサーファーも積極的にコミュニケーションを取る姿勢を持ってもらいたいです。海の情報を自分の中だけに留めず、他の人と共有することで、みんなが安全に楽しめる環境が作られると思います。海は誰のものでもない自然公物で、まさにみんなでシェアする場所です。ちょっとでも違和感を感じたことは伝えることで、少しずつ海のコミュニティが良くなっていくと思います。
サーフィンの魅力は?
五感を使いながらボード一枚で自然と一体化し、自分の体や心を客観的に見つめられることだと思います。波の大小に関わらず海に入ると楽しいですが、楽しめない時があるのは、自分の精神が不安定だったり考えすぎていたりする時だと冷静に気づくことができます。自然は様々な要素が複雑に絡み合う場所。波、日没、水温、海の色、風、匂いなど、全く同じ瞬間は二度とありません。その中で波待ちと波乗りという緩急を繰り返し、波に乗る一瞬の緊張感と楽しさを味わえるスポーツは他にないと思います。